ロック・ミュージック 5


047

Close to the Edge

yes イエス

日本では「起承転結」が一番有名なのに対して、西洋では三幕構成など3が割と好まれます。けれども、交響曲は3から4に構成が移っていきました。モーツァルトなどはその過渡期で、初期の曲は3部構成で、晩年は4部構成です。調べた事が無いのでその理由は不明です。

 

昔King CrimsonやPink Floydと共にプログレ御三家と呼ばれていたYesのClose To The Edgeは、プログレの古典的名アルバムです。タイトル曲は、昔で言うA面1曲の大曲で、交響曲のような4部構成となっています。

 

それぞれサブタイトルがついていて、アップテンポの1部はThe Solid Time Of Change、2部はTotal Mass Retainです。Yesのメンバーはみんな凄いテクニシャンで、それぞれの楽器の音が自由に絡み合います。3部は一転してスローな I Get Up I Get Down、教会のオルガンのようなシンセの荘厳な音が響き渡ります。最後がSeasons Of Man。見事な結末となります。まったくもって「起承転結」の見本のような作品です。

 

ボーイソプラノっぽいJon Andersonの高い声は、暑い夏に聴くと風鈴のように、なんとなく涼しい気持ちになります。

 

 

046

Never For Ever

kate bush ケイト・ブッシュ

最近の夏は、もう気が狂ったような暑さです。ニュースで最高気温が30度と聞くと、「今日はちょっと涼しいな」と思ってしまうほど、段々と感覚が麻痺してきています。

 

昔はこれほど暑くなかったように思います。特に夜であれば、窓を開ければ昼間の茹だるような熱気が嘘のように、十分涼しい風が入ってきました。そんな、夏の夜独特の雰囲気が好きでした。

 

Kate BushのNever For Everを聴くと、なぜかそんな夏の夜の雰囲気を思い出します。子宮から魔物が次々と生まれ出てくるという奇抜なアイデアのジャケットも印象的です。思えば、階段も夏の風物です。

 

ミドルテンポの1曲目Babooshkaは見事な出来栄えです。彼女の魔力っぽい魅力に溢れたこの曲を聴けば、たちまち引き込まれる事間違いなしです。エキセントリックな彼女の声は、若干好き嫌いが分かれそうです。変な衣装を着て歌うビデオクリップはちょっと面白いので一度YouTubeで見てみて下さい。

 

あの頃の夏の夜と同様に、残念ながらこれくらい魅力的なアルバムにはもう出会えないかもしれません。

 

 

045

Nashville Obsolete

Dave Rawlings Machine デイビット・ローリングズ・マシーン

名前にマシーンなんて付いているので、無機質な電子音を想像する人もいるかもしれません。本当は、現在生で聴ける最高にオーガニックなサウンドの一つです。

 

まず、1曲目のThe Week Endを聴いて見て下さい。こんなにリリカルで胸を打つサウンドは本当に驚きです。Daveは、パートナーのGillian Welch(ギリアン・ウェルチ)と一緒に、息の合った演奏とハーモニーを聴かせてくれます。

 

次の曲はShort Haired Woman Blues。印象的なアコースティックギターのイントロを聴くだけで、良い曲だというのが分かります。この寂寥感は、Neil Youngに似ています。そういえば、前作ではNeilのCortez The Killerをとてつもなく美しくカバーしていました。と、こんな感じで、全く捨て曲無しで全9曲があっという間に終わってしまいます。

 

ここまで書いてきて、「生で聴きたい」と猛烈に思いました。でも、最近のチケット代の高騰 を考えると、買えるような値段に収まってくれるか心配です。You Tubeのライブ映像で我慢するしかないのでしょうか。寂しいですね。

 


044

The Greatest

Cat Power キャット・パワー

先日、「マイ・ブルーベリー・ナイツ」を観ました。封切り時は、Norah Jones(ノラ・ジョーンズ)主演のオシャレな映画という宣伝文句に全然興味が持てませんでした。ところが、ふとした事で「猫ぢから」が出ている事を知り、一気に見たくなりました。 

 

Cross Bones StyleのPVなど、本当に見とれてしまうほどの超絶美人な「猫ぢから」がどんな演技を見せるのかちょっと楽しみでした。見ていると、映画の中盤、前後のストーリーと関係なく唐突にほんのちょっとだけ出てきました。 

 

僕は、ノラも猫ぢからのどちらの歌声も甲乙付け難く大好きです。面白かったのは、映画を見ていると、ノラは、喋る時には歌声ほどハスキーというかスモーキーではありません。猫ぢからの喋りはけだるいトーンで歌う時と同じハスキーな声でした。 

 

このアルバムは、映画にも収録されている曲、The Greatestがタイトルになった、「猫ぢから」と勝手に呼んでみたCat Powerの7枚目のアルバムです。ホントはキャタピラーの略のようです。1曲目のタイトル以外では、3曲目のLived In BarsやラストのLove & Communicationなどが特にお気に入りです。 

 

何かをする時のBGMに向いている音楽とは最も対極の、お酒でも吞みながらリラックスして彼女の歌声にずっと耳を傾けていたい、と思う音楽です。 


043

Warren Zevon ウォーレン・ジヴォン

華やかな都会の夜に、一人寂しく街を彷徨うろつく。話しかける相手のあても無いのに、何となく人恋しくて、家にはいられない。

 

このWarren Zevonのアルバムを聴くと、そんな寂しい夜を思い出します。リンダ・ロンシュタット(Linda Ronstadt)がアルバムタイトルにしたHasten Down The Windを代表に、他にもMohammed's RadioやPoor Poor Pitiful Me、Carmelitaなど、このアルバムの曲を4曲もカバーしたことでも分かるように、まさに名曲が詰まっています。それらのどの曲もが醸し出すハードボイルドな雰囲気がそんな記憶を蘇らせます。

 

ところが、今はスマホが一変させました。街を彷徨く代わりに、SNSの虚構の友達ネットワークの中を家に居ながらブラウジング、になってしまいました。視覚からの刺激だけが拡大されてしまい、肌で感じる何かが欠けてしまったように思います。

 

しばらく歩き回った後に立ち止まって人の流れを見つめていたら、心の底に何か温かい安心感のようなものが生まれてきました。それはこのアルバムのちょっとしたフレーズを聴いた時など、ふとした瞬間に同じ感じが込み上げてきた時がありました。

 

たまにはスマホを家に置いて、街に出てみましょう。あの寂しい中にほんのり温かい気持ちが堪らなく懐かしく思います。


042

Metal Box

public image limited  パブリック・イメージ・リミテッド

中学の時にこのアルバムを聴いて、物凄い低音に驚いた事は、忘れられません。今は、iPadとちっちゃなBluetoothスピーカーという組み合わせで聴いていて、明らかに低音の物足りなさを感じつつも、本当はどうだったのか?というクエスチョンマークが頭の中を埋め尽くします。

 

40年近くも前の事です。人間の記憶なんて全くあてになりません。実家のレコードプレーヤーはとうの昔に壊れてしまっていて、如何せん、確認のしようもありません。

 

1曲目のAlbatrossから太いベースに、金属的なギター音、Sex Pistolsとは全然違うJohn Lydonの冷たい声、すべてが冷ややかです。熱くなりません。黒人音楽をコピーしながらも、黒人音楽とはリズム感覚が全然違います。どの曲も決してリズミックにはならず、重たく引きずるようなリズムです。クラシック音楽の「白鳥の湖」アレンジしたSwan Lake、スペーシーなキーボードのサウンドが特徴のCareering、その他、 Poptones、Bad Babyなどが特に良い出来です。

 

"mob, war, kill, hate"を繰り返すバックの声が、ごくろうさん的な曲のChantが終わると、最後の曲は、教会のパイプオルガンっぽいインストルメント、Radio 4です。疲れた耳をちょっとだけ癒してくれます。


041

The Asylum Years

JUDEE SILL ジュディ・シル

今年も新年を迎えました。地球の歴史から見れば、1月になったからと言って何かが新しくなるわけでもありませんが、年の初めは何となく新鮮な気持ちになります。おごそかというか、神々こうごうしく感じます。

 

Judee Sillを聴くと、いつもそういった類のSpiritualを感じます。同じ頃に活躍していた他のアーティスト、Joni Mitchell(ジョニ・ミッチェル)やCarole King(キャロル・キング)、Carly Simon(カーリー・サイモン)、Laura Nyro(ローラ・ニーロ)には無いものです。年の初めのように、何がどう違うかは分かりません。でも確かに感じます。

 

アサイラムでたった2枚のアルバムを発表しただけで亡くなってしまったこの不遇な女性アーティストは、先ほど挙げた女性アーティストほど世間では知られていません。2枚のアルバムも高い評価を得ましたが、チャート的には振るいませんでした。

 

その2枚のアルバムをカップリングしたこの2枚組CDを聴くたびに、不幸な薬物中毒など悲惨な人生だった彼女の、音楽にかけるひたむきな思いに胸を打たれます。Lady-OやJesus Was A Cross Maker、My Man On Love、The Kissなどシンプルな音の構成の歌たち、新年のピーンと張り詰めた空気のようにSpiritualを感じさせます。これは、Down Where The Valleys Are Lowといったゴスペルベースの曲があるからSpiritualだと思うんだろう、といった形式の話では全くありません。

 

たった2枚のアルバムの中に、こんな素敵な曲をいっぱい残してくれた彼女には本当に感謝です。死んでから何十年も経って、自分の音楽がこんな遠くの島国で愛されていると知ったら、彼女はどう思うかな。