ロック・ミュージック

009

Metal Box

public image limited  パブリック・イメージ・リミテッド

中学の時にこのアルバムを聴いて、物凄い低音に驚いた事は、忘れられません。今は、iPadとちっちゃなBluetoothスピーカーという組み合わせで聴いていて、明らかに低音の物足りなさを感じつつも、本当はどうだったのか?というクエスチョンマークが頭の中を埋め尽くします。

 

40年近くも前の事です。人間の記憶なんて全くあてになりません。実家のレコードプレーヤーはとうの昔に壊れてしまっていて、如何せん、確認のしようもありません。

 

1曲目のAlbatrossから太いベースに、金属的なギター音、Sex Pistolsとは全然違うJohn Lydonの冷たい声、すべてが冷ややかです。熱くなりません。黒人音楽をコピーしながらも、黒人音楽とはリズム感覚が全然違います。どの曲も決してリズミックにはならず、重たく引きずるようなリズムです。クラシック音楽の「白鳥の湖」アレンジしたSwan Lake、スペーシーなキーボードのサウンドが特徴のCareering、その他、 Poptones、Bad Babyなどが特に良い出来です。

 

"mob, war, kill, hate"を繰り返すバックの声が、ごくろうさん的な曲のChantが終わると、最後の曲は、教会のパイプオルガンっぽいインストルメント、Radio 4です。疲れた耳をちょっとだけ癒してくれます。


008

Discipline

KING CRIMSON キング・クリムゾン

【2本のギターによる不思議サウンド】変拍子と、2本のギターのズレから生じる独特のノリ。

 

ファンというものは飽きやすい反面、アーティストが新しい事を始めるのは大嫌いです。そのために、同じような曲を、アーティストは手を変え品を変え演奏する破目になります。

 

King Crimsonのファンが聞きたいのは、新しいEpitaphやStarlessのような曲であって、全く違う曲をやり出したら総スカンを喰うだけでしょう。

 

ところが、実際にRobert Frippはこのアルバムでそれをやってしまいました。結果は本当に予想通りで、当時のロッキングオンでも非難の嵐でした。これほど酷評されたアルバムは、Led ZeppelinのIn Through the Out Door位しか思い出せません。あれも凄かった。

 

そんな事から離れて、音楽的にはこのアルバムはどうなのでしょうか。あれから数十年が経った今聴いてみると、Robert Frippはひたすら変拍子のフレーズを延々と弾き続け、Adrian Belewの変な音のギターが入る、1曲目のElephant Talkではゾウの鳴き声を真似ている。かなり人工的なサウンドで、それまでのKing Crimsonとはかなり異なります。それでもKing Crimsonという変な先入観がなければ楽しめるアルバムだと思います。特に、The Hun Ginjeetは迫力ある演奏です。

 

何故Crimsonの名前で発表したのか?King Crimsonでなければそこそこ評価されたようにも思われます。もしかしたら単純にRobert Frippの経済的な理由だったのかも知れません。


007

Remain in Light

TALKING HEADS トーキング・ヘッズ

【アンビエント+ファンク】Enoのアンビエント音楽がとってもファンキーに。不思議な音色の楽器が更に魅力をプラス

 

随分昔ですが、発売当初はロッキングオンでかなり論争が起こったアルバムです。黒人のリズム隊を入れてファンキーになるのはお手軽過ぎる、というのが非難の始まりでした。懐かしい!

 

このアルバム、僕は「単純に」好きでした。実は、発売当時の「リズムの洪水」と言う宣伝文句の程にはファンキーなリズムは強調されていないように思います。最初に1曲目のBorn Under Punchesを聴いたときは、宣伝文句から勝手に想像していた感じと異なっていた為に若干違和感を覚えました。聴いていると、通常のブラックミュージック(ファンク)のグルーブとはかなり異なっていて、ブラックミュージックの一方的な利用では無く、人と人とが一緒に演奏することから生まれるグルーブを感じるようになりました。

 

今ではわざわざバンドに入れなくてもサンプリングというもっとお手軽な方法が有ります。それこそ単なる素材として扱っていて、このアルバムのようなグルーブは出せないと思います。その辺りはDavid ByrneとEnoがブラックミュージックを一旦自分達で解釈してから演奏した結果のように思えます。独特のクールな感じはきっとスタジオアルバムだからでしょうね、You Tubeでライブを見ると、とにかくノリが凄くてカッコいいです。

 

The Great CurveのAdrian BelewのギターやHouses In MotionのJon Hassellのトランペット等色々と不思議な音色の楽器が聴けるのもこのアルバムの魅力です。


006

Then Play On

FLEETWOOD MAC フリートウッド・マック

【ブルースロックの美しい結晶】60年代数多くのブルースバンドが現れては消えていった、その中でも抜きんでた存在

 

探すのが面倒なのでうろ覚えのまま書きます。幸田露伴の「努力論」に、成功した者は自分の努力の賜物と思い、失敗した者は自分は運がなかったと思うといったような事が書いてあったように思います。

 

Creamをはじめとした多くのブルースバンドの1つとして、Fleetwood Macは60年代にデビューしました。Black Magic Womanなどヒット曲に恵まれたものの、結局失速しバンドは空中分解してしまいました。後に、Rumoursが大ヒットとなりましたが、あれはメンバーもほとんど違い、全く違うバンドと言えます。

 

荒々しいブルースをベースに、看板ギタリストのPeter Greenがかなでる泣きのギター、加えて、アコースティックな美しい曲となれば、誰もが思い浮かべるのはLed Zeppelinです。雨後のタケノコのように現れた60年代のブルースバンドの中で、結局、長く成功を続けられたのはLed Zeppelinだけでした。

 

1969年という60年代が終わろうという時期に発表されたこのアルバムを聴く、とにかくどの曲も素晴らしいです。1曲目の曲調はちょっとラテンっぽさも感じられSantanaを思い出します。そういえば、SantanaはBlack Magic Womanをカバーして大ヒットさせました。6曲目のOh Wellは特に名曲です。前半は激しく、一転して後半はアコースティックで静かな感じになります。

 

アルバムからは才気溢れるバンドの勢いが感じられて、この先の暗い結果などは予感も感じられません。成功し続けるには運がなかったのか、それとも何かが足りなかったのか?


005

Nashville Obsolete

Dave Rawlings Machine デイビット・ローリングズ・マシーン

名前にマシーンなんて付いているので、無機質な電子音を想像する人もいるかもしれません。本当は、現在生で聴ける最高にオーガニックなサウンドの一つです。

 

まず、1曲目のThe Week Endを聴いて見て下さい。こんなにリリカルで胸を打つサウンドは本当に驚きです。Daveは、パートナーのGillian Welch(ギリアン・ウェルチ)と一緒に、息の合った演奏とハーモニーを聴かせてくれます。

 

次の曲はShort Haired Woman Blues。印象的なアコースティックギターのイントロを聴くだけで、良い曲だというのが分かります。この寂寥感は、Neil Youngに似ています。そういえば、前作ではNeilのCortez The Killerをとてつもなく美しくカバーしていました。と、こんな感じで、全く捨て曲無しで全9曲があっという間に終わってしまいます。

 

ここまで書いてきて、「生で聴きたい」と猛烈に思いました。でも、最近のチケット代の高騰 を考えると、買えるような値段に収まってくれるか心配です。You Tubeのライブ映像で我慢するしかないのでしょうか。寂しいですね。

 


004

Fish Rising

STEVE HILLAGE  スティーブ・ヒレッジ

【スペース・サイケ音楽】実は海や魚とは全然関係ないポップなサイケ、スペース・ギターもGOOD

 

タイトルがFish Risingでジャケットが魚の絵、The Salmon SongとかFishという名前の曲も入っています。クレジットがSTEVE HILLFISH、演奏楽器もGitfishです。当然、海をイメージさせる音を想像してしまいますが、実際に聞いてみると「熱にうなされたサイケ」という感じの音楽です。強いてあげるなら2曲目の「ごぼごぼごぼ」というSEでしょうか。では何故?と思いますが単にSteve Hillageが釣り好きというのが理由だそうです。初めて知った時は少し笑ってしまいました。

 

このアルバムの曲はどれも素敵で演奏もかなり気合いが入っています。Steve Hillageもギターを弾きまくっています。特に1曲目の17分に及ぶ力作Solar Musick Suiteと3曲目Meditation Of The Snakeがお勧めです。

 

ギターというのは本当に不思議な楽器と思います。どうしてこんなに弾く人によって感じが違うのでしょうか。同じサイケを演っていてもJerry Garciaのギターは官能的なのに、Steve Hillageはふわふわしています。スペーシーな感じです。それがサイケに良くあっています。


003

The River

BRUCE SPRINGSTEEN  ブルース・スプリングスティーン

【労働者階級のヒーロー】パワフルなロックの中で、夢破れた現実を唄う曲が重く響く

 

貧しい家庭や、ごくごく平凡な労働者の家に生まれ、たまたまバンドを作ったら運よくヒットした。こう言う事は良くあると思います。貧しかった時に作った歌は本物だろうが、ヒットすれば当然お金も入り、金持ちになる。いわゆる成金です。そうなっても、労働者クラスの気持ちを代弁する様な歌がつくれるのでしょうか?

 

タイトル曲のThe Riverで、Bruce Springsteenは夢破れた労働者クラスの若者の事を唄っています。「メアリーが17歳の時、高校で出会った。やがて彼女は妊娠した。19歳の誕生日に労働組合のカードをもらい結婚したが、花もウェディングドレスも、はやなかな事は何一つなかった。」と続く、暗い暗いストーリーの曲です。

 

「かなわなかった夢は嘘なのか?」。ずしーんと心に響く、重いフレーズです。Bruceが実際に成金かどうかなんて関係なく、この歌はそんな次元を超えた素晴らしい曲です。

 

シングルカットされたHungry Heartは、オールディーズ調の良い曲ですが、なんだか理解できない歌詞です。「みんなハングリーハートを持っている。金なんか打ち捨てて、やるべき事をやるんだ」というサビは超ポジティブな内容なのに、その主人公は、「バルティモアで結婚して子供もできたけど、ある日家を飛び出したきり、二度と帰らなかった」。えーって感じです。何か昔から叶えたい夢があり、忘れられずに家を飛び出したのか分かりませんけど、残された方の妻と子供は大迷惑です。

 

John Lennonがインタビューで、「最近気に入っている曲はラジオで聴いたHungy何とかってフレーズの男性が唄っている曲だよ」と言っていたらしいので、歌詞には何かもっと深い意味があるのかもしれません。


002

The Heart of Saturday Night

TOM WAITS  トム・ウェイツ

【センチメンタル&メランコリー】真夜中に響く、酔っ払い詩人のしわがれた歌声

 

ラジオでBlue Valentineを初めて聞いたとき、 すぐに気に入りレコード屋さんへ買いに行きました。残念ながら置いてなくて、かわりにこのアルバムを買って帰り、それ以来のお気に入りです。今でも、深夜に一人で聴いてしんみりとする時があります。

 

このアルバムの曲は、どれもジャジーでメロディがとても綺麗です。「酔いどれ詩人」Tomの歌い方も、スタイリッシュでカッコ良く、若い時なので声も今ほどしゃがれていません。

 

聴いていて、不思議に懐しい感じがする所があります。することがなくて意味も無く毎日呑んでいた頃を突然思い出したりして、恥ずかさと懐しさが混った本当に言葉にはできない感じがこみ上げてきます。こういう感情をメランコリックとかノスタルジックと言うのでしょうか。

 

San Diego SerenadeやThe Heart Of Saturday Night、Shiver Me Timbers、Please Call Me, Baby、Drunk On The Moon等、挙げればほぼアルバム全曲になってしまう程、お気に入りの曲がいっぱいでです。 同じ様な曲が続くのに、退屈しないで最後迄聞ける数少ないアルバムです。


001

Close to the Edge

yes イエス

日本では「起承転結」が一番有名なのに対して、西洋では三幕構成など3が割と好まれます。けれども、交響曲は3から4に構成が移っていきました。モーツァルトなどはその過渡期で、初期の曲は3部構成で、晩年は4部構成です。調べた事が無いのでその理由は不明です。

 

昔King CrimsonやPink Floydと共にプログレ御三家と呼ばれていたYesのClose To The Edgeは、プログレの古典的名アルバムです。タイトル曲は、昔で言うA面1曲の大曲で、交響曲のような4部構成となっています。

 

それぞれサブタイトルがついていて、アップテンポの1部はThe Solid Time Of Change、2部はTotal Mass Retainです。Yesのメンバーはみんな凄いテクニシャンで、それぞれの楽器の音が自由に絡み合います。3部は一転してスローな I Get Up I Get Down、教会のオルガンのようなシンセの荘厳な音が響き渡ります。最後がSeasons Of Man。見事な結末となります。まったくもって「起承転結」の見本のような作品です。

 

ボーイソプラノっぽいJon Andersonの高い声は、暑い夏に聴くと風鈴のように、なんとなく涼しい気持ちになります。