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芸術を解する力がほぼ無いので、キュビズムと呼ぶらしいピカソの絵を見ても全然良いとは思いません。音楽では、現代音楽の巨匠と呼ばれる「不確定性の音楽」「偶然性の音楽」のジョン・ケージも同様です。
ところが、青の時代と呼ばれる若い頃のピカソの絵は、とても気に入りました。本当に楽器を弾くのが素人同然な為に演奏が下手なパンクロックとは違います。やっぱり何か意図があってワザとああいう訳の分からない絵を描いていたのが分かります。このアルバムのジョン・ケージの曲を聴くと、ピカソと同じ感想を持ちました。シンプルで美しいメロディ、可愛らしい印象すら与える小曲です。とくに、1曲目のIn A Landscapeは傑作です。まるで墨絵のような印象を与える曲です。その他、ジョン・ケージが「発明」した、たまにガムランのようにも聴こえる不思議な音色のプリペアド・ピアノの曲もあります。
どうしてこのアルバムのような曲をもっといっぱい作ってくれなかったのでしょうか?普通の音楽を作り続けるのに、飽きてしまったのかもしれません。
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Brian Enoが昔作ったObscureというレーベルがあります。とても短命でかなり実験的な音楽を発表していました。それでもPenguin Cafe Orchestraのように日本でも有名になったアーティストもいます。Obscureのアルバム第1弾がGavin BryarsのThe Sinking Of The Titanicで、Geoff SmithはGavinの弟子です。
長々とした説明になりましたが、ロックなどポピュラーミュージックとクラシックのアーティストの交流がイギリスは盛んなのでしょうか。その結果がどうかは不明なので置いとくとして、イギリスには、Michael NymanやJohn Harle、そしてこのGeoff Smithなど驚くほどポップで聴きやすいクラシックの作品を発表するアーティストが多いようです。
このアルバムをJohn HarleのSilenciumと比べてみると、どちらもポップで聴きやすく、とてもキレイな声の女性ボーカルを取り入れていて、まるで双子のようなアルバムです。あえて言うならば、Silenciumは若干気持ちが高揚するアドレナリン系で、15 Wild Decembersはより気持ちが落ち着く方が強いセロトニン系です。ピアニストだけあってピアノがとてもきれいです。
うっかり現代音楽を聴いていると言うと、大抵は変わり者と思われます。そう言う人たちは、おそらくこのアルバムを聴いた事は無いでしょう。もしその人が音楽好きなら大変に損をしています。絶対に気に入ると思うのに。物凄く残念です。
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【ポップな現代音楽】 クラシックの先入観を裏切る、もう感動しかない!
格調高いという事は、えてして重々しい感じを与えるものが多い気がします。音楽で格調高いと言えばクラシックです。あれ程軽やかだったバロック音楽から年代が経つにつれ、どんどん重々しくなっていきました。軽くて分かりやすいものは、俗っぽい大衆音楽と思われて馬鹿にされる、と作曲家があえて考えたわけではないと思いますが、聴いてると何か暗くなってきます。
このJohn HarleのSilenciumは、クラシックとは思えないほどポップで軽々しく、気持ちが明るくなります。メロディも美しいし、落ち着いた感じが、日本でヒーリングミュージックと言われたのも納得できます。女性ボーカルがクラシックの発声でなければ、クラシックというのを忘れてしまいそうです。1曲目のMorning Prayerは、鐘の音で始まり、清楚な女性ボーカルが入ります。ゆったりしたリズムで後半は子供の合唱隊も加わります。なんかもう心が洗われ感じです。2曲目のSpirituはパーカッションのリズミカルなイントロが特徴、3曲目のAir & Angelsはギターの間奏がポイントで、とても良いアクセントになっています。というように、全12曲、どの曲も本当に良く出来ています。6曲目のAstreaは日産のCMに使われたそうです。
クラシックやジャズ、更に詳細化されたカテゴリーは、その名前からある程度の音を聴く前から想像させます。普通は似た感じの音が好きなので、カテゴリー分けするのは親切なのでしょう。でも、このアルバムがクラシックしかも現代音楽というジャンルに当たるために、はなから聴く気になれない人がいたらとても不幸です。クラシック=重々しい、現代音楽=退屈、わけが分からない、といった従来の型にはまったイメージを打ち破るこのアルバムは、確かにマーケティングが難しいとは思います。ヒーリングミュージックとして宣伝したのは良かったと思うと同時に少し残念です。そういう効果を求める人向けだけでは範囲を狭めます。もっともっといろいろな人に聴いて欲しいと思います。
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【ロックな現代音楽】 現代音楽なのにまさかのサイケな快感、聴いてると文字通りトランス状態へ
現代音楽の作曲家であるMichael GordonのこのアルバムTranceは、ロック的なかっこよさに溢れています。ロック的とは何か?と議論が分かれるとは思いますが、まず第一はフレーズのカッコ良さです。ロックにはギターのリフだけで決まり!という名曲がたくさんあります。Rolling StonesのSatisfactionやCreamのSunshine of your love、Led ZeppelinのWhole Lotta Loveなど、数え上げればきりがありません。クラシックにはほとんどないパターンです。例外なのはSteve ReichやPhilip Glassのミニマル派です。Michaelは彼らの手法を取り入れていますが、彼らと比較すると非常にロックっぽく感じます。それはスピード感というか疾走感です。最初のTrance 1のフレーズを聴くだけでアドレナリンが涌いて来るのが分かります。
構成そのものはわりと古典的な起承転結になっており、転の部分のTrance Droneにはチベットの仏教音楽がサンプリングされています。アンビエントっぽくなり、ここで一旦リズムが無くなります。突然それが終わり、Trance 5が始まるところのかっこよさは本当に凄い、痺れます。
演奏しているIcebreakerは全く知りません。普段もこういう感じの曲を演奏しているのだろうか?でも、このアルバムだけで充分と思える程シャープでひき締まった怪演だと思います。
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【ミニマルの魅力】はまると、もはや繰り返し中毒患者
Glassの音楽はミニマルミュージックと呼ばれています。現代音楽の一つで、簡単に言えば短いフレーズを繰り返す音楽です。
世の中には繰り返しが大嫌いと言う人が結構います。実は、昔GlassやReichのCDがかかっていると、妻から文句を言われたことがありました。聴いていると気分が悪くなるそうです。「わざわざお金を出して単調な繰り返しの音楽を聴く神経が解らない」とまで言ってました。
僕は何故か繰り返しが大好きで、ミニマルミュージック以外でもブラックミュージックのファンクやヒップホップがお気に入りです。単純に、聴いてて気持ち良くなるのが理由です。夫婦でも全然好みが違います。
このアルバムはGlassの最初期のもので、もしかしたらメジャーデビューアルバムかもしれません。Glassの特徴は繰り返すフレーズのメロディがとても綺麗で叙情性がある所です。このアルバムは曲も短めでミニマルミュージックが初めての人にも大変聴きやすい(はずです)。もっと長い曲が聴きたいなあ、と思い始めると既に中毒患者です。